2018.10.19 Friday
ふつうの女性こそ、筋トレを行うべき理由
健康のための運動が良いことは、今や誰も知っている常識です。
ただ、どんな種類の運動がどのような効果をもたらすのか、どんな人がどのような運動をするべきか──またその理由は何か、というところまで心得ている人は意外と少ないのではないでしょうか。
今回は アスリートではない、スポーツが趣味でもない、ごくふつうの女性こそ筋トレを行うべき理由 を厚生労働省の統計を使いながら書いてみたいと思います。
■目次
私たちはいったいどんな病気になりやすいのか?
厚生労働省の統計『平成26年度 国民医療費の概況』の傷病分類別医科診療医療費によると、医療費の上位5位は以下のようになっています。
総数 292506
1.循環器系の疾患 58892
2.新生物 39637
3.筋骨格系及び結合組織の疾患 22847
4.呼吸器系の疾患 211772
5.損傷、中毒及びその他の外因の影響 21667
※単位:億円
循環器系の疾患がもっとも多く、次に新生物、筋骨格系及び結合組織の疾患とつづいています。
それでは、患者数はどうでしょうか。
『平成26年度 患者調査』によれば、以下のようになっています。
循環器系の疾患の患者総数は入院2,401,000人、外来9,330,000人(計11,731,000人)
新生物の患者総数は入院1,449,000人、外来2,316,000人。(計3,765,000人)
筋骨格系及び結合組織の疾患は入院699,000人、外来8,778,000人。(計9,477,000人)
医療費がいちばん多く使われている循環器系の疾患は患者数も最も多いですが、2番目に医療費が多い新生物の患者数は筋骨格系及び結合組織の疾患の患者数よりもぐっと少なく、その差は実に2.5倍にもなっていることが分かります。
それぞれの入院患者数と外来患者数の比較からも、筋骨格系及び結合組織の疾患を持つ患者は、入院加療を要するほどの重篤なものはさほど多くないものの、患者数は多いことがうかがえます。
これらのことから、日本人が最もかかりやすい病気は心臓や脳、血管などに関連する循環器系の疾患であり、医療費は高額になりやすいものの、数としては悪性新生物や良性腫瘍などの新生物よりも、筋肉や関節その周りの損傷が多いことが見えてきます。
運動で予防できる疾患とは?
健康のために運動をはじめようと思ったとき、真っ先に何を思い浮かべるでしょうか?
また、その運動はどんな病気や障害の予防に役立つものでしょう。
運動と健康の関連はさまざま分野で盛んに研究されていますが、エビデンスがあり、明確に関連があるとされているのは一般的には心臓と肺(心肺機能)それに、筋肉や関節の部分です。
ランニングや水泳、バイク(自転車)などの全身有酸素運動は心臓や呼吸器の機能を高め、筋力トレーニングやストレッチなどは筋肉や関節機能の増強、維持に直接的につながります。つまり、日本人がもっともかかりやすい循環器系の疾患と、患者数の多い筋骨格系及び結合組織の疾患は、運動によってある程度予防できる可能性があるのです。
どんな運動から始めれば良いのか
いざ健康のために運動をはじめようと思ったとき、真っ先に思い浮かべるのは何ですか?
「ウォーキング」や「ランニング」を想像した人が多いのではないでしょうか。
ランニングやウォーキングはこだわりはじめればキリがありませんが、基本的には特別な道具を揃える必要もなく、思い立ったその日からはじめることができるし、それだけに、すぐにやめてしまっても大きな損失もありません。ランニングやジョグが流行して久しいですが、そのあたりの気軽さがいちばんの魅力なのかもしれません。
過去運動歴があり、自分のからだや運動能力に一定の信頼がある人は、いきなりランニングからはじめようと考えるかもしれないし、これまで全く運動歴がない人や、以前に比べて大きく体重が増えてしまった人はまずはウォーキングから……と考えるかもしれません。
ただ、ここでひとつ知っていただきたいのは、過去運動歴がある人でも、習慣化されていなかった人がランニングをはじめるのは思わぬリスクがあるし、ウォーキングはやり方次第によっては、期待するような運動効果は得られない可能性があることです。
厚生労働省の生活習慣予防のための健康情報サイト「e-ヘルスネット」によれば、安全かつ効果的にトレーニングを行うためには3つの原理と6つの原則があります。
3つのトレーニングの原理
「過負荷の原理」
ある程度の負荷を身体に与えないと運動の効果は得られないということです。その強度の最低ラインは、日常生活の中で発揮する力以上の負荷です。
「特異性の原理」
運動中のエネルギーの使われ方や筋肉の活動の仕方と関係する能力が増加することです。わかりやすくいうと、短距離走のトレーニングをすれば短距離は速くなりますが長距離は速くなりませんし、脚のトレーニングをすれば脚のパフォーマンスは高まりますが腕のパフォーマンスは向上しないということです。
「可逆性の原理」せっかく獲得した効果もトレーニングを中止すると失われてしまうことです。
6つのトレーニングの原則
「意識性の原則」
トレーニングの内容・目的・意義をよく理解し、積極的に取り組むことです。トレーニングの目的は何か、プライオリティは何かを意識して取り組むことが重要です。
「全面性の原則」
有酸素能力・筋力・柔軟性などの体力要素をバランスよく高めることです。筋力トレーニングについていえば、全身の筋をバランスよく鍛えること、大筋群を優先して実施することなどです。
「専門性の原則」
競技や健康づくりなど目的にあった機能(筋力・筋パワー・筋持久力・有酸素能力・柔軟性など)を優先的に高めていくことです。健康づくりでは有酸素運動と大筋群の筋力トレーニング・ストレッチング、競技種目ではその運動で使われる筋群を実際の活動様式(スピードが必要なのか持久力が必要なのか)に合わせて行います。
「個別性の原則」
トレーニングの実施内容を個人の能力に合わせて決めるようにします。これは効果を得るばかりでなく、安全のためにも極めて重要なことで、ひとりひとりの能力を細かく見極める必要があります。
「漸進性の原則」
体力・競技力の向上に伴って、運動の強さ・量・技術課題を次第に高めていくことです。いつまでも同じ強度の繰り返しではそれ以上の向上は望めません。定期的なプログラムの再検討が重要になります。
「反復性・周期性の原則」
運動プログラムは、ある程度の期間、規則的に繰り返すようにします。繰り返し行うことは、テクニックを上げるための重要な要素です。周期性の原則は、1年間を通したトレーニング計画を行うことです。どの時期が最も効果的かを考えてプログラムを作成します。
たとえば、ウォーキングを例にあげて考えてみましょう。
これまで1日10分間しか歩いていなかった人が、いつものフォーム、いつもの速さで30分間歩くようになると、これまでの日常以上の負荷がかかることになり、ある程度までは運動効果が得られます。(過負荷の原理)
しかし、いつしか体はその負荷に慣れてしまいます。慣れてしまった頃合いを見計らって、速さをあげる、大きく腕を振るなどしてフォームを変える、距離を長くするなどして運動強度をあげなければ、それ以上の効果は望めません。(漸進性の原理)
つまり、健康のために「1日30分は歩くようにしています」という状態は、続けているうちにいつしか、心肺機能を高める効果や筋肉や関節の強度を高める効果は得られなくなっているのです。
ただし、5分の歩行から30分の歩行に変えた分の運動効果は身体機能の向上という形で残っています。ですがそれを止めてしまえば、いったん得た運動効果も失われてしまいます。(可逆性の原理)
ついでに言うと、そもそも、10分間の歩行を30分にするということそのものも、運動効果が得られるものであるかどうかも個人個人の事情によります。(個別性の原則)
せっかく健康のために運動を、と思い立っても、このように適切な効果を得るには実に難しいのです。
ならば、ウォーキングよりも確実に負荷の強いランニングはどうでしょうか。
これまで走っていなかった人が走りはじめれば、きっと心拍数は上がり、「辛い」と感じることでしょう。日常生活以上の負荷であることは間違いありません。
しかし、ここにも落とし穴があります。
強すぎる負荷の運動は、衰えた筋肉や関節に急激な負荷をかけ、逆に傷めてしまう可能性が高いのです。
「健康のためにランニングをはじめたものの、膝や腰が痛くなってしまって……」
という話は決して珍しい話ではありません。さらに恐ろしいのは、関節や筋肉だけでなく、循環器の合併症を引き起こすことさえあるということです。
健康のために運動を行い、安全かつ効果的にその効果を得るには、その人の身体状況や運動歴に見合った適切な負荷の運動からはじめ、適切なタイミングで少しずつ運動強度をあげていくことが大切なのです。
ふつうの女性はまずは筋トレから!
冒頭で紹介したとおり、「筋骨格系及び結合組織の疾患」の患者数は新生物の2.5倍にものぼります。さらに女性に限定すれば『性別にみた傷病分類別医科診療医療費構成割合』では、筋骨格系及び結合組織の疾患は上位3位に入ってきています。(男性の3位は腎尿路生殖器系の疾患)
これは、女性が男性に比べてもともとの筋力や筋量が少なく、平均余命が長いことの影響もあるかもしれません。
そもそも健康のために運動をはじめよう、と思い立つのは健康診断で異常が出てからや、何らかのきっかけで死の存在をぼんやり感じたり、老いに直面したりする「中年期」ではないかと思います。
全身有酸素運動によって心肺機能を高めることは、健康にとって大変有意義で大事なことではありますが、これまで特に運動をしてこなかった人がある日突然ランニングをはじめることは大変なリスクを伴いますし、ウォーキング等の負荷の軽い運動では、逆になかなか効果を望めないかもしれません。
このような理由から、ある程度年齢を重ねた人――特に、女性が運動をはじめる場合は、まずは「筋トレ」がお勧めです。
筋トレというと、ジムにあるようなマシーンや重りを使ったものをイメージする人も多いかもしれませんが、これまで運動習慣がなかったのなら、何も道具は使わず、自身の体重を負荷にする程度のもので十分です。それに慣れてきたら、3kg程度の軽い重りを使っても良いでしょう。
ランニングやウォーキングと同じで、特別な道具や準備は何も要りません。出かける必要もありません。二畳程度のスぺースがあれば、家でさまざまな筋力トレーニングが可能です。
その際は、「全面性の原則」に基づいて、上肢と下肢をバランスよく、大きな筋肉から優先して鍛えるのが大事です。少し前に流行ったインナーマッスルは小さな筋肉ですから、大臀筋(お尻の筋肉)や大腿四頭筋(太ももの前の筋肉)、腹直筋(お腹の筋肉)、脊柱起立筋(腰背部の筋肉)など大きな筋肉から鍛えましょう。これらの筋肉を鍛えると、腰痛や股関節痛予防に役立ちます。
また、反復性・周期性の原則に基づいて、同じ動きを繰り返し続けることも大切です。
よりよく老いるために、歯磨きと同じように運動を
生きている以上、加齢によって種々の衰えが出ることは避けられません。しかし、運動はその衰えを緩やかにすることができるだけでなく、爽快感や自信などをもたらします。運動は決して裏切りません。やればやった分だけ、体の変化という形で目に見える形で現れます。
さあ、今日から健康のために運動をはじめましょう!
引用・参考
平成26年度 国民医療費の概況|厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/k-iryohi/14/
e-ヘルスネット 運動プログラム作成のための原理原則-安全で効果的な運動を行うために
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/exercise/s-04-001.html